2026.09.30
「混合ワクチンは毎年接種したほうがいいの?」
「室内飼いの猫にもワクチンは必要?」
動物病院では、このようなご質問をいただくことがあります。
今回は、世界的な獣医学研究や最新の国際ガイドラインをもとに、犬と猫のワクチンの効果について解説します。
ワクチンの目的は、感染症から大切な犬や猫を守ることです。
犬では、ジステンパーやパルボウイルス感染症など、命に関わる感染症があります。
猫では、猫汎白血球減少症や猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症などが代表的です。
ワクチンを接種すると、体の免疫システムが病原体に対する防御反応を準備します。
その結果、感染を防いだり、感染した場合でも発症や重症化を抑えたりする効果が期待できます。
ただし、ワクチンはすべての感染症を100%防げるわけではありません。
病原体の種類によって、期待できる効果も異なります。
実は、ワクチンの効果が長期間持続することを示した研究があります。
2006年に発表されたSchultz博士の総説では、約1,000頭の犬を対象とした研究などを踏まえて、ワクチンによる免疫の持続期間が検討されています。
その結果、犬のジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスに対する主要なワクチンでは、3年以上の免疫持続を裏付ける研究結果が報告されています。
また、2024年に世界小動物獣医師会(WSAVA)が発表したガイドラインでも、適切な初回接種を完了した成犬に対して、主要なコアワクチンを3年より短い間隔で繰り返す必要はないとされています。
ただし、これはすべてのワクチンに当てはまるわけではありません。
例えば、レプトスピラ感染症などに対するワクチンでは、一般的に毎年の追加接種が必要になります。
大切なのは、ワクチンの種類に応じて適切な接種間隔を選ぶことです。
1999年に発表された興味深い研究があります。
研究者たちは、猫の3種混合ワクチンを接種した猫について、7.5年後の免疫状態を調べました。
その結果、猫汎白血球減少症に対しては、長期間にわたる強い防御効果が認められました。
一方、猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスについては、感染を完全に防ぐことはできませんでしたが、症状を軽減する効果が確認されました。
つまり、同じ3種混合ワクチンでも、対象となる感染症によって効果の現れ方が違うのです。
なお、この研究は少数の猫を対象としたものであり、すべての猫が7年以上追加接種を必要としないという意味ではありません。
子犬や子猫は、生まれた直後に母親から抗体を受け取ります。
この抗体は、生まれて間もない時期の感染症予防に重要な役割を果たします。
しかし、母親から受け取った抗体には、ワクチンの効果を妨げるという側面もあります。
さらに、母親由来の抗体が減少する時期には個体差があります。
そのため、ワクチンを1回接種しただけでは、十分な免疫を獲得できない場合があります。
2024年のWSAVAガイドラインでは、子犬や子猫の主要なワクチンについて、生後6〜8週齢頃から接種を開始し、2〜4週間隔で生後16週齢以降まで接種を続けることが推奨されています。
さらに、生後26週齢以降の追加接種も推奨されています。
子犬や子猫の時期に適切なワクチンプログラムを実施することは、感染症予防において非常に重要です。
完全室内飼育の猫でも、感染症のリスクが完全になくなるわけではありません。
例えば、新しく猫を迎え入れた場合や、動物病院への通院、ペットホテルの利用などによって、感染症に接触する可能性があります。
WSAVAでは、室内飼育の猫を含め、すべての猫に基本となるコアワクチンの接種を推奨しています。
ただし、追加接種の頻度は生活環境によって異なります。
完全室内飼育でほかの猫との接触が少ない猫と、屋外に出る猫やペットホテルを頻繁に利用する猫では、感染症のリスクが異なるためです。
それぞれの生活環境に合わせたワクチンプログラムを考えることが大切です。
ワクチンの種類によって異なります。
犬の主要なコアワクチンについては、適切な初回接種が完了していれば、長期間の免疫が期待できます。
一方、レプトスピラなど、定期的な追加接種が必要なワクチンもあります。
また、猫についても、完全室内飼育なのか、ほかの猫と接触する機会があるのかによって、推奨される接種間隔が異なります。
必要に応じて、血液検査によるワクチン抗体価の測定が役立つ場合もあります。
ただし、抗体価検査ですべての感染症に対する防御効果を正確に判断できるわけではありません。
なお、日本では犬の狂犬病予防注射が法律によって毎年1回義務付けられています。混合ワクチンとは別に考える必要があります。
コアワクチンは、犬や猫にとって特に重要な感染症を予防するためのワクチンです。
対象となる感染症には、感染すると重症化し、命に関わる危険性が高い病気も含まれています。
そのため、ワクチンの接種間隔を延ばす場合でも、十分な免疫が維持されているかを考えることが大切です。
「以前接種したワクチンの効果がまだ残っているのか心配」「毎年ワクチンを接種する必要があるのか知りたい」という飼い主様には、ワクチン抗体価検査をおすすめしています。
抗体価検査では、血液中に含まれる特定の感染症に対する抗体の量を調べることができます。
特に、犬のジステンパー・パルボウイルス・アデノウイルスや、猫の汎白血球減少症については、抗体価検査が免疫状態を判断する際の参考になります。
ただし、抗体価検査ですべての感染症に対する防御効果を判断できるわけではありません。
大切なのは、ワクチンを接種することだけでなく、必要な免疫が維持されているかを確認しながら、適切な感染症予防を続けることです。
今回ご紹介した研究から、犬や猫の主要なワクチンには、長期間の免疫効果が期待できるものがあることがわかっています。
しかし、すべてのワクチンが同じ期間効果を発揮するわけではありません。
また、年齢、健康状態、生活環境、過去の接種歴によっても、適切なワクチンプログラムは異なります。
ワクチン接種で大切なのは、必要な感染症予防を行いながら、不必要な追加接種を避けることです。
レプトスピラ感染症は西日本に多く見られる病気でしたが、近年関東以北でも感染が見られるようになり、昨年は藤沢市で確認されていますので、ワクチン未接種の方はご検討が必要と思われます。
当院では、ワンちゃん・ネコちゃんの年齢や生活環境、これまでのワクチン接種歴などを確認し、それぞれに合った感染症予防についてご相談いただけます。
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以下参考論文を掲載します。
論文名:
2024 guidelines for the vaccination of dogs and cats
著者:Squires RA, et al.
掲載誌:Journal of Small Animal Practice
発表年:2024年
世界小動物獣医師会(WSAVA)が発表した、科学的根拠に基づくワクチン接種ガイドラインです。
重要なポイントは次のとおりです。
このガイドラインでは、すべての犬猫に必要な感染症対策を行いつつ、不必要な追加接種を避けることが推奨されています。DOI
論文名:
Duration of immunity for canine and feline vaccines: A review
著者:Ronald D. Schultz
掲載誌:Veterinary Microbiology
発表年:2006年
約1,000頭の犬を対象とした研究などを踏まえて、ワクチンによる免疫の持続期間を検討した総説です。
犬のジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスなどの主要なワクチンについて、3年以上の免疫持続を裏付ける研究結果が報告されています。
一方、主要なワクチン以外では免疫の持続期間が短いものもあります。
したがって、すべての混合ワクチンについて「3年に1回でよい」と解釈することはできません。PubMed
論文名:
Long-term immunity in cats vaccinated with an inactivated trivalent vaccine
著者:Scott FW, Geissinger CM
掲載誌:American Journal of Veterinary Research
発表年:1999年
猫の3種混合ワクチンの長期的な効果を検証した研究です。
ワクチン接種から7.5年後に、接種済みの猫9頭と未接種の猫8頭について、ウイルスに対する防御効果を調べました。
その結果、猫汎白血球減少症(パルボウイルス)に対しては長期間にわたる強い防御効果が確認されました。
一方、猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスについては、発症や症状を軽減する効果が認められたものの、感染やウイルス排出を完全に防ぐことはできませんでした。
研究規模は小さく、特定の不活化ワクチンを用いた結果ですが、ワクチンの効果が感染症ごとに異なることを示す興味深い論文です。PubMed