2026.09.25
「最近、愛犬が寝てばかりいる」「食事の量は変わらないのに太ってきた」「毛が薄くなってきた」
このような症状が見られる場合、甲状腺機能低下症という病気が隠れているかもしれません。
今回は、犬の甲状腺機能低下症について、原因や症状、検査、治療方法をわかりやすく解説します。
甲状腺は、犬の首の気管の左右にある小さな臓器です。
甲状腺からは、体の代謝や体温の維持、心臓の働きなどを調節する「甲状腺ホルモン」が分泌されています。
甲状腺機能低下症とは、この甲状腺ホルモンの分泌が不足することで、体のさまざまな機能が低下する病気です。
主に中年齢から高齢の犬で発症し、ゴールデン・レトリーバーやドーベルマンなどで比較的多く見られます。
犬の甲状腺機能低下症のほとんどは、甲状腺自体に異常が生じる「原発性甲状腺機能低下症」です。
主な原因には、次の2つがあります。
① リンパ球性甲状腺炎
免疫の異常によって、自分自身の甲状腺が攻撃され、徐々に甲状腺の組織が破壊される病気です。
② 特発性甲状腺萎縮
甲状腺の組織が萎縮し、甲状腺ホルモンを十分に作れなくなります。
まれに、脳の下垂体や視床下部の異常が原因となる場合もあります。
甲状腺ホルモンは全身のさまざまな臓器に作用するため、不足すると多くの症状が現れます。
特に注意したいのが、元気の低下、体重の増加、皮膚や被毛の異常です。
これらは、甲状腺ホルモンの不足によって体の代謝が低下することで起こります。
年齢のせいだと思っていた症状が、実は甲状腺機能低下症によるものだったというケースもあります。
甲状腺機能低下症では、皮膚や被毛に特徴的な変化が現れることがあります。
代表的な症状は以下のとおりです。
また、皮膚に粘液状の物質が蓄積する「粘液水腫」が生じると、顔がむくんだような特徴的な顔貌になることがあります。
ただし、これらの症状は他の皮膚疾患でも見られるため、症状だけで診断することはできません。
頻度は高くありませんが、神経や心臓に異常が現れる場合もあります。
例えば、以下のような症状です。
重症例では、意識障害を伴うこともあります。
ただし、これらの症状には別の病気が関係している可能性もあるため、慎重な検査が必要です。
甲状腺機能低下症の診断には、症状や一般的な血液検査に加え、甲状腺ホルモンの測定を行います。
主に次の検査を組み合わせて判断します。
① T4(総サイロキシン)
血液中の甲状腺ホルモンの量を測定します。
甲状腺機能低下症では低値を示すことが多いですが、他の病気や薬の影響でも低下するため、この検査だけでは確定診断できません。
② FT4(遊離サイロキシン)
タンパク質と結合していない甲状腺ホルモンを測定します。
特に平衡透析法によるFT4測定は、T4よりも他の病気などの影響を受けにくく、診断に役立ちます。
③ TSH(甲状腺刺激ホルモン)
脳の下垂体から分泌され、甲状腺にホルモンを作るよう指示するホルモンです。
甲状腺機能低下症ではTSHが上昇することがありますが、正常値を示す犬もいるため、他の検査結果と合わせて判断します。
また、一般的な血液検査では、高コレステロール血症や軽度の貧血が認められることがあります。
甲状腺ホルモンの数値が低いからといって、必ずしも甲状腺機能低下症とは限りません。
他の病気や服用中のお薬の影響なども考慮して、総合的に診断することが大切です。
甲状腺機能低下症の診断では、主に「T4」と「FT4」という2種類の甲状腺ホルモンを測定します。
この2つの違いを、わかりやすく説明します。
① T4(総サイロキシン)とは?
T4は、血液中に存在する甲状腺ホルモンの総量を表します。
血液中の甲状腺ホルモンには、タンパク質と結合しているものと、結合していないものがあります。T4検査では、その両方をまとめて測定します。
甲状腺の働きを調べるための基本的な検査です。
ただし、甲状腺に異常がなくても、他の病気や薬の影響によって数値が低くなることがあります。
② FT4(遊離サイロキシン)とは?
FT4は、血液中でタンパク質と結合せず、自由に存在している甲状腺ホルモンです。
このFT4は、体の組織に取り込まれ、ホルモンとして働くことができます。
FT4検査では、この自由な状態のホルモンだけを測定します。
特に「平衡透析法」という方法で測定したFT4は、T4と比べて他の病気などの影響を受けにくく、甲状腺機能低下症の診断に役立ちます。
甲状腺ホルモンを「お金」に例えてみます。
つまり、T4は血液中にあるホルモンの総量を、FT4はその中で自由に存在し、体の組織に取り込まれて働くことができるホルモンの量を表しています。
一般的には、まずT4を測定します。
T4が低く、甲状腺機能低下症が疑われる場合には、FT4やTSH(甲状腺刺激ホルモン)などの追加検査を行います。
ただし、FT4も万能な検査ではありません。重い病気や薬の影響などで数値が変化することがあります。
そのため、T4・FT4・TSHの検査結果と、ワンちゃんの症状を組み合わせて判断することが大切です。
治療の基本は、不足している甲状腺ホルモンをお薬で補うことです。
一般的には、レボチロキシンという甲状腺ホルモン製剤を使用します。
適切に治療することで、元気や活動性の改善、皮膚や被毛の状態の回復などが期待できます。
元気の改善は比較的早く見られることがありますが、皮膚や被毛の回復には数か月かかる場合もあります。
また、多くの場合、生涯にわたって投薬を継続する必要があります。
治療中は定期的に血液検査を行い、甲状腺ホルモンの数値や症状を確認しながら、お薬の量を調整します。
甲状腺機能低下症は、適切な治療によって良好な生活の質を維持できることが多い病気です。
しかし、初期症状がゆっくりと進行するため、飼い主様が気づきにくいことがあります。
特に中高齢のワンちゃんでは、次のような変化に注意しましょう。
こうした変化が見られる場合は、年齢のせいだと決めつけず、一度動物病院に相談することをおすすめします。
免疫系が自分自身の甲状腺を攻撃する自己免疫性疾患です。
診断の手がかりとなるのが、**抗サイログロブリン抗体(TgAA)**の測定です。
TgAAが陽性の場合、リンパ球性甲状腺炎が強く疑われます。
ただし、病気が進行して甲状腺組織が破壊されると、抗体が陰性になる場合もあります。
したがって、TgAA陰性でもリンパ球性甲状腺炎を完全には否定できません。
甲状腺の正常な組織が徐々に失われ、脂肪組織などに置き換わる病態です。
一般的にTgAAは陰性ですが、リンパ球性甲状腺炎の末期でも陰性になることがあります。
そのため、TgAAが陰性という理由だけで特発性甲状腺萎縮と診断することはできません。
| 検査 | リンパ球性甲状腺炎 | 特発性甲状腺萎縮 |
|---|---|---|
| T4 | 低下することがある | 低下することがある |
| FT4 | 低下することがある | 低下することがある |
| TSH | 上昇することが多い | 上昇することが多い |
| TgAA | 陽性になることがある | 一般的に陰性 |
| 甲状腺超音波 | 炎症に伴う変化や萎縮 | 甲状腺の萎縮 |
| 甲状腺の病理組織検査 | リンパ球浸潤など | 甲状腺組織の減少や脂肪組織への置換 |
超音波検査では甲状腺の大きさや内部構造を評価できますが、両者を確実に区別できるとは限りません。
最終的な鑑別には甲状腺の病理組織検査が必要になる場合があります。 ただし、甲状腺機能低下症の一般的な診療では、原因を区別する目的で組織検査を行うことは通常ありません。
通常、両者を厳密に鑑別する必要性は高くありません。
どちらも甲状腺ホルモンの分泌が不足するため、基本的な治療はレボチロキシンによるホルモン補充療法です。
また、特発性甲状腺萎縮と考えられる症例の一部は、リンパ球性甲状腺炎が進行した結果である可能性も指摘されています。
臨床的には、両者の鑑別よりも、甲状腺機能低下症を正確に診断し、適切に治療することが重要です。
甲状腺機能低下症は、早期発見と適切な治療によって、症状の改善が期待できる病気です。
日頃から愛犬の体重や活動量、皮膚・被毛の状態を観察することが大切です。
気になる症状がある場合は、お気軽に当院までご相談ください。