2026.10.04
「最近、水を飲む量が増えた」「食欲が旺盛になった」「お腹がぽっこりしてきた」など、愛犬にこんな変化はありませんか?
これらの症状は、単なる加齢による変化ではなく、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)という病気が原因かもしれません。
今回は、特に中高齢の犬に多く見られるクッシング症候群について、症状や原因、検査、治療方法をわかりやすく解説します。
最後に症例を1例紹介します。皮膚のみの病変でクッシング特有の症状が見られなかった症例です。
クッシング症候群は、副腎から分泌される「コルチゾール」というホルモンが過剰になることで、さまざまな症状を引き起こす病気です。
副腎は左右の腎臓の近くにある小さな臓器で、コルチゾールはストレスへの対応や血糖値の調節、代謝など、生命を維持するうえで重要な働きをしています。
しかし、コルチゾールが必要以上に分泌され続けると、全身に悪影響を及ぼしてしまいます。
クッシング症候群は中高齢の犬に多く、ゆっくりと進行するため、初期段階では飼い主さんが異変に気づきにくいこともあります。
クッシング症候群では、次のような症状がよく見られます。
これらの症状がすべて現れるわけではありません。
特に、水を飲む量や尿の量が増えることは、比較的よく見られる症状です。
また、筋力の低下や脱毛などは加齢による変化と勘違いされやすいため、注意が必要です。
クッシング症候群は、主に次の3つの原因によって発症します。
① 下垂体性クッシング症候群
脳の下垂体に腫瘍などができ、副腎にホルモンを分泌するよう過剰に指令を出してしまうタイプです。
犬の自然発症のクッシング症候群では、最も多く見られるタイプです。
② 副腎腫瘍性クッシング症候群
副腎自体に腫瘍ができ、コルチゾールが過剰に分泌されるタイプです。
腫瘍には良性と悪性があり、その性質や広がりによって治療方針が異なります。
③ 医原性クッシング症候群
ステロイド剤を長期間使用することなどによって発症するタイプです。
ステロイド剤はさまざまな病気の治療に使われる大切な薬ですが、使用量や期間によってはクッシング症候群に似た症状が現れることがあります。
なお、ステロイド剤を自己判断で急に中止すると危険な場合があるため、必ず獣医師の指示に従ってください。
クッシング症候群が疑われる場合、症状や身体検査の結果を確認し、必要に応じて次のような検査を行います。
① 血液検査・尿検査
肝酵素の上昇やコレステロールの増加、尿の濃さなどを確認します。また、糖尿病や尿路感染症など、ほかの病気がないかも調べます。
② 腹部超音波検査(エコー検査)
副腎の大きさや形、腫瘍の有無などを確認します。
③ ホルモン検査
ACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験などを行い、コルチゾールの分泌状態を調べます。
クッシング症候群は、ひとつの検査だけで確定診断できるとは限りません。症状や複数の検査結果を総合的に判断することが重要です。
治療方法は、クッシング症候群の原因や愛犬の全身状態によって異なります。
① 内科治療(お薬による治療)
主にトリロスタンという薬を使用し、コルチゾールの過剰な分泌を抑えます。
治療中は定期的な診察や血液検査などを行い、症状の改善とホルモンの状態を確認しながら、お薬の量を調整していきます。
② 外科治療(手術)
副腎に腫瘍がある場合には、腫瘍の性質や全身状態などを考慮して、手術による摘出を検討することがあります。
下垂体に大きな腫瘍がある場合には、専門施設での手術や放射線治療などが選択肢になることもあります。
クッシング症候群は、原因によっては手術で根治を目指せる場合がありますが、多くの犬では継続的な内科治療と定期検査が必要になります。
適切な治療によって、水を飲む量や尿の量、食欲などの症状が改善し、良好な生活の質を維持できる犬も少なくありません。
一方で、糖尿病や高血圧、血栓症、感染症などを併発することもあるため、定期的な健康チェックが大切です。
寿命や予後は、病気の原因や重症度、併発している病気などによって大きく異なります。
クッシング症候群は、日常生活のちょっとした変化が発見のきっかけになります。
特に中高齢の犬では、次のような変化に注意しましょう。
こうした症状は、クッシング症候群以外の病気でも見られます。
「年齢のせいだから仕方がない」と思わず、気になる変化があれば、早めに動物病院へご相談ください。
愛犬の小さな変化に気づくことが、病気の早期発見と健康寿命を延ばす第一歩になります。
今回ご紹介するのは、脱毛や膿皮症などの皮膚トラブルが続いていたワンちゃんです。

当初はアレルギー性皮膚疾患を疑って治療を行っていましたが、健康診断の超音波検査で副腎が正常よりも大きくなっていることが判明しました。
その後、皮膚の改善は見られず、ACTH刺激試験などの検査結果から、クッシング症候群と診断しました。
このワンちゃんには、多飲多尿や食欲の増加、お腹の膨らみといったクッシング症候群に特徴的な症状は見られず、皮膚症状が主体でした。
口周囲の赤みや脱毛、皮膚の炎症など、さまざまな皮膚トラブルが見られました。
クッシング症候群に対する治療を開始したところ、皮膚症状は徐々に改善しました。
口周囲の赤みや脱毛も軽減し、現在では皮膚の状態も良好になっています。
クッシング症候群というと、水をたくさん飲む、おしっこの量が増える、お腹がぽっこりするといった症状がよく知られています。
しかし、今回のように典型的な症状が見られず、皮膚症状が中心となるケースもあります。
なかなか治らない皮膚病や、繰り返す皮膚トラブルの背景には、ホルモンの病気が隠れている可能性もあります。
今回の症例では、健康診断が病気を発見する大切なきっかけとなりました。
愛犬に気になる症状がある場合はもちろん、目立った症状がなくても、定期的な健康診断を受けることをおすすめします。