2026.07.11
今回は猫ちゃんが最近よく嘔吐します。とのご相談を受けましたので、猫ちゃんの一般的な嘔吐の原因についてお話しします。
猫は比較的よく吐く動物です。
「毛玉を吐いただけかな?」
「猫はよく吐くから大丈夫」
と思われることも多いですが、嘔吐を何度も繰り返している場合は、胃や腸の病気が隠れている可能性があります。
特に、数週間にわたって嘔吐が続く、以前より吐く回数が増えた、体重が減ってきたという場合は、一度詳しい検査を受けることをおすすめします。
今回は、猫の慢性的な嘔吐の原因となる「慢性胃腸炎」や「消化管型リンパ腫」について解説します。
一般的に、原因がはっきりしない嘔吐や下痢などの消化器症状が3週間以上続く状態を「慢性腸症」と呼びます。
ただし、「3週間たつまで様子を見てよい」という意味ではありません。
猫は体調不良を隠すことが得意な動物です。吐いていても元気そうに見えたり、食欲が保たれていたりすることもあります。
次のような変化がある場合は注意しましょう。
「昔からよく吐くから、この子の体質」と思っていた猫でも、慢性的な胃腸の病気が隠れていることがあります。
慢性的な嘔吐の原因は一つではありません。
腎臓病、肝臓病、膵臓の病気、甲状腺の病気など、胃腸以外の異常でも嘔吐がみられることがあります。
胃や腸に原因がある場合は、大きく次のような病気が考えられます。
胃や腸に慢性的な炎症が起こる病気です。
原因は完全には解明されていませんが、体質や免疫反応、食事、腸内細菌など、さまざまな要因が関係すると考えられています。
主な症状は、
「繰り返す嘔吐」
「食欲の低下」
「体重減少」
「下痢や軟便」
などです。
犬の慢性腸症では下痢が目立つことが多いのですが、猫では下痢がなく、嘔吐や食欲不振だけがみられることもあります。
食事を変更すると症状が改善する場合は、「食事反応性腸症」と呼ばれることもあります。
難しい名前ですが、簡単にいうと、猫に特有の「腸に硬い炎症のかたまりができる病気」です。
「好酸球」という白血球が集まり、炎症が続くことで組織が硬く厚くなります。
主に胃の出口付近にできることが多く、
などの症状がみられます。
超音波検査では腸の壁が厚くなったり、しこりのように見えたりすることがあります。
腫瘍と似て見える場合もあるため、確定診断には内視鏡検査や手術による組織検査が必要になることがあります。
リンパ腫は、「リンパ球」という白血球が腫瘍化する病気です。
猫では腸に発生する「消化器型リンパ腫」が比較的多くみられます。
主な症状は、
などです。
猫の消化器型リンパ腫には、ゆっくり進行する「低悪性度リンパ腫」と、進行が速い「高悪性度リンパ腫」があります。
特に低悪性度リンパ腫は、慢性胃腸炎と症状や超音波検査の所見がよく似ているため、見た目や画像検査だけでは区別が難しいことがあります。
猫ちゃんは慢性的な便秘症やグルーミングにより胃に毛球がたまっている毛球症により慢性嘔吐が見られる場合もあります。
慢性的な嘔吐では、一つの検査だけで原因を特定できるとは限りません。
症状や年齢、体重の変化などを確認しながら、必要な検査を組み合わせて原因を調べます。
血液検査では、全身の状態を確認します。
胃腸以外の病気でも嘔吐することがあるため、
などに異常がないかを調べます。
また、貧血や炎症、脱水、栄養状態なども確認します。
下痢や軟便がある場合は、寄生虫などが関係していないかを調べます。
完全室内飼育の猫でも寄生虫がみつかることがあるため、必要に応じて検査を行います。
超音波検査では、胃や腸の壁の厚さや構造を確認します。
また、
なども調べます。
ただし、超音波検査だけで「慢性胃腸炎」や「リンパ腫」を確定することは難しい場合があります。
内視鏡は、細いカメラを口から入れて、食道や胃、十二指腸の粘膜を観察する検査です。
炎症や潰瘍などを直接確認できるほか、胃や腸の粘膜から小さな組織を採取できます。
採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、
「慢性的な炎症なのか」
「リンパ腫などの腫瘍なのか」
を判断します。
必要に応じて、腫瘍細胞の可能性を詳しく調べる遺伝子検査を追加することもあります。
治療方法は原因によって異なります。
まず、治療用のフードを一定期間試すことがあります。
一般的には、
などを使用します。
食事を変更して症状が改善した場合は、食事が病気に関係していた可能性があります。
食事療法の効果を正しく判断するためには、おやつや人の食べ物を与えず、決められたフードを続けることが大切です。
吐き気が強い場合は、吐き気止めや胃腸の動きを整える薬を使用します。
慢性的な炎症が確認された場合は、炎症や過剰な免疫反応を抑えるために、ステロイド薬などを使用することがあります。
猫は人と比べるとステロイドの重い副作用は起こりにくいとされていますが、長期間使用する場合は、定期的な診察や血液検査が大切です。
胃腸型リンパ腫では、抗がん剤による治療を行います。
「抗がん剤」と聞くと、強い副作用を心配される飼い主さんも多いと思います。
動物の抗がん剤治療では、病気を治すことだけでなく、「できるだけ普段どおり、穏やかに生活できる時間を長くすること」を大切にします。
猫では、人の抗がん剤治療のように強い吐き気や脱毛が起こることは比較的少ないとされています。
ただし、白血球や血小板が減ることがあるため、治療中は定期的な血液検査が必要です。
慢性的な嘔吐の診察では、ご自宅での記録がとても役立ちます。
可能であれば、次のことを記録しておきましょう。
嘔吐している様子を動画で撮影していただくと、「嘔吐」なのか「吐き戻し」なのか、「咳」なのかを判断する助けになることもあります。
猫はよく吐く動物ですが、「何度も吐くことが正常」というわけではありません。
特に、
「吐く回数が増えてきた」
「嘔吐が何週間も続いている」
「食欲が落ちている」
「少しずつ痩せてきた」
という場合は、慢性胃腸炎や胃腸型リンパ腫などの病気が隠れている可能性があります。
慢性的な胃腸の病気は、症状だけでは区別が難しく、血液検査や超音波検査、必要に応じて内視鏡検査や組織検査を組み合わせて診断します。
「昔から吐きやすい子だから」と決めつけず、気になる変化があればお気軽にご相談ください。